第十七説 後編「だめやろか?」風鳴は唐突に仲間に入れてくれという。驚きのあまり、ラキ、幽海、雪、のどか、水草先生、村雨は口が半開きになっていた。 「おれ、そんなによわないやん。ええやろ。ホンマ頼む!」 顔の前で手を合わせ、6人に頼み込む。 「いいんじゃない?ね。」 「ん?でも、ホントに強いのか?あのクソ猫にやられるくらいだろ。」 「あれはウソ。結構強いよ~♪」 雪の顔がみるみるうちに赤くなる。 「ん~・・・だな。悪いやつじゃないし。変態だけど。」 「ですね・・・。」 「おっ!結構高評価じゃん。ならいいんじゃない?あとは・・・。」 猫無の頬を軽く叩く。 「ん・・・。」 「大丈夫か?で、気分わりぃとこわりぃんだけど、風鳴が仲間に入りたいらしい。結構みんな、受け入れてるぞ。」 「・・・ラキは?」 猫無は少し考えてラキは入れてもいいのかをきいた。 「ん?おれか?おれは、まぁいいかな。」 「じゃあ、いいよ。」 「ホンマに!?ありがとう、ありがとう。」 1人ひとりに握手をしてまわる。 「そや、ミキあいさつしとき。」 レッサーパンダの状態のミキうなずき、人の姿になった。 「「「げっ・・・。」」」 「うわ~♪」 「(かわい~・・・。)」 「(ぐはぁ!!なんだ、この高鳴る鼓動!?くそぉ、かわいい。かわいすぎる!!・・・でも、1位はのどかだなぁ・・・。)」 「うそっ!?かわいっ♪」 風鳴の後ろに隠れ、こちらをおそるおそる観ている、小さい女の子。この子がミキ。大き目の服を着て、手を隠し、風鳴のズボンをぎゅっと握って、不安そうな目でこちらを見つめる姿は、誰もが守ってあげたいと思うであろう。しかも、なぜだかわかならい、頭に付いている動物の耳。それがさらに、萌えポイントを・・・いや、かわいく見せている。 「ほ~ら。あいさつしぃ。」 風鳴が自分より前にミキを持ってくる。 「・・・獅音 ミキ(れおん みき)です。」 獅音は当て字です。勝手に読ませてるだけです。 あいさつだけすると、また、風鳴の後ろに隠れた。 「ミキちゃん♪おいで♪」 水草先生が目を輝かせてミキを呼ぶ。 「ほ~ら、呼んでるで。」 少し迷ったあげく、ミキは水草先生の元へ向かった。 「近くで見るともっとかわいい♪」 不意に抱きつく。小さくだがミキは手足をばたつかせている。 「先生!いやがってますよ!!」 「へ?うっそ~、ごめんねぇ~。」 抱きつくのをやめ、ミキを放すと、水草先生から離れ、のどかの後ろにいく。 「大丈夫?ごめんね。」 のどかはミキの頭を軽くなぜる。とってもうれしそうだ。 「・・・風鳴、ちょっと。」 猫無が風鳴を呼ぶ。 「ん?なに?」 「あの・・・さ。」 「あ、おれは妹系はタイプやないねん。どっちかっていうと、おねぇ様系のほうが好きやし、チアとかナースとかのほうがええのよ。ま、さすがに最初はやられたよ。でもまぁやられたけど、なんていうかもう慣れた。いや、慣れはしない。慣れたというか、おれが大人になったのかもな。」 「なるほど。って、なに最後かっこよく閉めてんだよ。」 のどかには、コスプレさせといて、おねぇ様系がタイプって、よくわからないやつだ。 「いいのか?」 村雨が雪に問う。 「ん~まぁ、大丈夫だろ。な、クソ猫。」 「たしかに強いし、あのでかさは脅威だな。」 「ですね。」 「ああ・・・って・・・。」 「「「おまえだれだぁ!!!???」」」 ラキ、雪、村雨の会話に自然と入ってきていた、なぞの男。この部屋1面に響き渡る声。ラキ達の方を見ないわけない。 「あっ!」 幽海がその男を指差す。 「失敬。急にお話に交わらせていただくのも失礼かと思ったのですが、皆さん個々で盛り上がっていらっしゃいまして、入る隙をうかがっていたのです。そしたら、こうなってしまって。本当に申し訳ないです。」 「シュバルツさんだ!!」 「あ~。そういえば。」 「はい。私はディモナイ・シュバルツです。お久しぶりですね。幽海さん。雪さん。それと・・・皆さんには1度あってますよね?」 Mr.Dの仲間、吸血鬼、シュバルツが久々に幽海達の目の前に姿をあらわす。 「はぁ?誰だ、こいつ。」 猫無、ラキはヒールドレス、紅炎、シュバルツが消えてから、他の部屋から出てきたので、シュバルツの姿を見ていない。 「?」 猫無、ラキ同様、のどかも無理やり他の部屋に入れられていたので見ていない。 「そうでした。私が勝手に皆さんを見ていただけでしたね。改めまして・・・。始めまして、ディモナイ・シュバルツです。以後よろしくお願いいたします。簡単に私自身のことを説明いたしますと、Mr.Dの子分ですかね。あっ、Mr.Dというのは、前に襲ってきた、我的姉妹のボスでもありまして・・・」 「!!猫無!!行くぞ!!」 「ちょっと待った!」 「あ・・・そっか。」 猫無の体は風鳴との戦いでボロボロだった。 「私は別に戦いに来たわけではありませんよ。今日はただ・・・おや?」 「ミキ!!」 風鳴がミキにぬいぐるみになるように指示する。 「風鳴!!」 「とりあえず、こいつは敵なんやろ?だったら、やったろうやないの。」 「でもな・・・。」 「今、戦えんのはおれだけやろ。な?」 ラキは言葉をつまらせる。ラキは猫無が負傷で戦えない。幽海は雪負傷。のどかは補助しかできない。だとすると、たしかに戦えるのは風鳴だけなのだが・・・。 「右手と両足に岩はもうつまってないんだぞ!だから、おれらに降参したんじゃないのか!」 「まぁ、たしかにな。でも、戦えないわけじゃないしな。」 「でも・・・。(そんな状態で勝てる相手じゃないんだ!)しかも、今日は戦いに来たわけじゃないっていってるし・・・。」 なんとか、戦わせないようにするラキ。だが、風鳴の気持ちは折れない。 「敵の言葉を鵜呑みにするんか?やられるで。行こう!ミキ!」 「グオォォォォォ!!!!!!」 「・・・すごいですね。いつの間にこのようなお仲間を?」 シュバルツは周りをみて、ここは危ないと判断し、猫無達が巻き添えにならないところに、風鳴を誘導する。本当に戦う気はなかったのであろう。 「(やれやれ・・・ここらでいいですかね。)」 シュバルツがようやく、《デスシックル》を取り出す。 「それが武器かいな。でかいな。」 「いえいえ。あなた様のものほどではありませんよ。」 そういうと、シュバルツはラキに目線をやる。 「(見といてくださいよ。)では、いきます。」 シュバルツはそういうと、《デスシックル》を高速で身体の前、横、頭の上、足元と回し始めた。 「第一夜 エクリプス。」 シュバルツは消えた。 「ええっ!」 風鳴はミキに乗り、上から見下ろすがシュバルツの姿はない。もちろん、ラキ達の視点からでもシュバルツの姿はなかった。 「どこや!?どこいったんや!!」 「ふふふ・・・。見えはしませんよ。」 シュバルツの声だけ聞こえる。 「月が太陽を覆い隠し、光を遮断するように、私のこの《デスシックル》が光を遮断、いや、切り裂き、私から放たれる、または私に向けられている光を消しているのです。」 「はぁ?」 難しすぎて、風鳴にはわからない。 「日食って知っていますか?」 「まぁ、知ってるけど。月が太陽の前に立って隠すってやつやろ?」 「はい。私がやってることは、簡単にいいますと、その日食なんです。」 「はぁ?」 簡単っていわれてもわからない。 「私が太陽で、《デスシックル》が月。月が少しだけ、太陽を隠しているのですよ。」 「なんや、まわりくどいやっちゃな。要するに・・・。ミキ!」 猫無に当てた時とは逆の手を使い、モーションに入っていく。 「実際はどこかにいるんやったら、一面攻撃すればええんや!!」 さきほどと同じように砂煙を巻き上げ、左腕が猫無達の目の前を通りすぎて行った。そのあと、足の岩がなくなって、体の踏ん張りがきかず、ミキはコマのように回る。 「これならどこにいても、あたるやろ。」 これも計算内だという。 「いえ。」 ミキの肩にしがみつく、風鳴の隣から声が聴こえる。 「それは、敵が地上に入ればの話ですよ。」 シュバルツが姿をあらわした。ふわりと飛び、右肩から左肩に移る。 「勘弁してくださいね。あなたが悪いのです。私は攻撃しないといっておりますのに、攻撃してきたから。」 ミキの左手を肩から切り落とした。その瞬間、ミキはレッサーパンダに戻る。肩に乗っていた風鳴は落下するが、シュバルツがうまく受けとめ、風鳴へのダメージはなかった。 「ミキ!!」 風鳴は駆け寄る。猫無戦で右手両足、今、シュバルツが左手を切り落としたことで、いくらすぐ縫ったとしても両手両足が使えなくなったと判断され、強制戦闘終了したのだ。また、風鳴の旅もここで終わる。シュバルツは猫無達のところへ向かう。 「話の続きです。今日はただ、しばらくの間、私達はあなた方に関わらないということを、伝えにきただけなのです。」 「ほぉ~。それはそれは。ありがとうございます。(なにがあったかしらねぇけど、ラッキー♪その間に猫無達を強くすりゃ・・・)」 「理由は、あなたがたが弱いからです。」 「はぁ?」 弱いなら今すぐ倒せばいいのに、意味がわからない。 「つまらないでしょう?ラスボスが弱かったら。」 「クソゲーだ!それは!」 ゲームに関して熱い熱を入れる、猫無。 「はい。それと同じで、私側サイドから見るとあなた方は敵。その敵が弱くてはつまらないのです。」 「・・・なんかムカつきます。」 「仕方ないじゃない。事実よ、事実。」 「そうです。仕方ありません。彼女が言うように事実なんですから。」 「ムッ!なんかあいつに同じこと言われるとムカつく~。」 水草先生は頬を膨らませる。 「理由はもう1つあります。あなた達は弱い。これは事実。そして、私達も弱い。これもまた事実なのです。」 「よ~するに、だ。お互いレベルの高い戦いがしたいわけだな?」 「まぁ、そういうことですかね。お話が長くなりましたね。では・・・。」 シュバルツが飛び立とうと、マントを広げた。 「最後に一言。幽海様。」 「あ、はい!」 急に幽海に話を振るもんで、驚く。 「以前、私がいった言葉、覚えていらっしゃいますでしょうか?」 「えっと~。キリンってウシ目の動物なんですってやつですか?」 「覚えてくれたのですか。うれしいかぎりです。では、もう1つ、覚えてくださらないでしょうか?」 「はい。大丈夫です。」 「ありがとうございます。」 シュバルツは咳払いをした。 「カマキリは結婚したら雌が雄を食べるんです。」 「前から思ってたんですけど、それには一体どういう意味が・・・」 「では、またお会いしましょう。」 シュバルツは消えた。 「セッちゃん。なんなんだろう?あの言葉?」 「さぁな。なんか深い意味がありそうだよな。でもまぁ、今は風鳴だ。」 もう動かなくなってしまった左手のないレッサーパンダのミキをただ見つめる風鳴。 「風鳴・・・旅は・・・。」 「ん?・・・ああ、ごめん。取り消しや。」 「そっか・・・。じゃあ、先いくわ。」 「そうか。そこの階段を上りきれば地上に出られる。元気でな。」 「ああ。」 笑顔で手を振ることなく、風鳴は立ち上がり猫無達を見送った。猫無達といっしょに旅に出られなかったこと、そしてなにより、ミキがあの世に絶ったこと。そのダメージで笑顔さえ、作ることすら忘れていた。いや、風鳴自身では笑顔を作ったつもりだったのかもしれない。だが、表情にはでることはなかった。猫無達は気を使い、急ぎ目にこの部屋を出て行く。 「ん~!よ~やく外か。久々の太陽の光が眩しいねぇ・・・って、全然眩しくねぇな!!」 夜につっこむラキ。 「結構な時間、地下にいたんだねぇ。」 フッ~と息を吐く幽海。 「なんで最後は階段なの!?」 不満を漏らす水草先生。 「大丈夫か、のどか?」 「は、はい・・・。だい・・・じょうぶ・・・です・・・。」 長い長い階段に疲れきっているのどかと、それを心配する村雨。 「はぁ・・・はぁ・・・ったく、だらしねぇ!」 「ごめん~。でも、怪我してんだよ!?」 「おれもいっしょだ!!」 もう登らないなどとだだをこねた猫無を背負って階段を登った、肋骨が折れている雪。 「さて、これからどうする?7人分ホテルに泊まれるほど金もってねぇぞ。」 「しかも民宿すらないような森の中だしね。」 「人数分のハンモックはあるぞ。」 ずっと背負ってたリュックからハンモックを取り出す村雨。さすが準備がいい。 「え~!!野宿~。」 水草先生は溜め息を吐く。 「決まりだな。バカ犬と猫無だけ、町に戻って、病院へ行け。」 「おう。」 「へぇ~い。」 「じゃあ、私達も一旦戻ろう!」 どうしても野宿は嫌だそうだ。 「ダメです。」 「うぅ~・・・あっ!じゃあ、あの小屋にいこっ!!」 こういうときは人一倍頭が働く。 「おっ!そうっすね!そうしましょうか!じゃあ、小屋に戻ってきてくれな。猫無、バカ犬。」 「嫌だ。バカ犬っていうな。アホ猫。」 溜め息をつく、ラキ。 「じゃあ、なんて呼んでほしいんだ?」 「天才。」 ((((((ガキか。)))))) 「じゃあ、天才。小屋に戻って来い、もちろん、猫無といっしょに。」 「おお!」 猫無と雪は歩き出す。 「ちゃんと、戻ってこいよ!!」 皆、極度の方向音痴な雪が心配で仕方ない。方向に関して、猫無は大丈夫なはずだから、まぁ多少は安心できるが。他の5人は小屋に向かった。小屋に着くとそうとう疲れたのか、皆、すぐ寝てしまった。 |