055227 ランダム
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臥雲県-ただ一つの森の中-

臥雲県-ただ一つの森の中-

第十七説 後編

「だめやろか?」
風鳴は唐突に仲間に入れてくれという。驚きのあまり、ラキ、幽海、雪、のどか、水草先生、村雨は口が半開きになっていた。
「おれ、そんなによわないやん。ええやろ。ホンマ頼む!」
顔の前で手を合わせ、6人に頼み込む。
「いいんじゃない?ね。」
「ん?でも、ホントに強いのか?あのクソ猫にやられるくらいだろ。」
「あれはウソ。結構強いよ~♪」
雪の顔がみるみるうちに赤くなる。
「ん~・・・だな。悪いやつじゃないし。変態だけど。」
「ですね・・・。」
「おっ!結構高評価じゃん。ならいいんじゃない?あとは・・・。」
猫無の頬を軽く叩く。
「ん・・・。」
「大丈夫か?で、気分わりぃとこわりぃんだけど、風鳴が仲間に入りたいらしい。結構みんな、受け入れてるぞ。」
「・・・ラキは?」
猫無は少し考えてラキは入れてもいいのかをきいた。
「ん?おれか?おれは、まぁいいかな。」
「じゃあ、いいよ。」
「ホンマに!?ありがとう、ありがとう。」
1人ひとりに握手をしてまわる。
「そや、ミキあいさつしとき。」
レッサーパンダの状態のミキうなずき、人の姿になった。
「「「げっ・・・。」」」
「うわ~♪」
「(かわい~・・・。)」
「(ぐはぁ!!なんだ、この高鳴る鼓動!?くそぉ、かわいい。かわいすぎる!!・・・でも、1位はのどかだなぁ・・・。)」
「うそっ!?かわいっ♪」
風鳴の後ろに隠れ、こちらをおそるおそる観ている、小さい女の子。この子がミキ。大き目の服を着て、手を隠し、風鳴のズボンをぎゅっと握って、不安そうな目でこちらを見つめる姿は、誰もが守ってあげたいと思うであろう。しかも、なぜだかわかならい、頭に付いている動物の耳。それがさらに、萌えポイントを・・・いや、かわいく見せている。
「ほ~ら。あいさつしぃ。」
風鳴が自分より前にミキを持ってくる。
「・・・獅音 ミキ(れおん みき)です。」
獅音は当て字です。勝手に読ませてるだけです。
あいさつだけすると、また、風鳴の後ろに隠れた。
「ミキちゃん♪おいで♪」
水草先生が目を輝かせてミキを呼ぶ。
「ほ~ら、呼んでるで。」
少し迷ったあげく、ミキは水草先生の元へ向かった。
「近くで見るともっとかわいい♪」
不意に抱きつく。小さくだがミキは手足をばたつかせている。
「先生!いやがってますよ!!」
「へ?うっそ~、ごめんねぇ~。」
抱きつくのをやめ、ミキを放すと、水草先生から離れ、のどかの後ろにいく。
「大丈夫?ごめんね。」
のどかはミキの頭を軽くなぜる。とってもうれしそうだ。
「・・・風鳴、ちょっと。」
猫無が風鳴を呼ぶ。
「ん?なに?」
「あの・・・さ。」
「あ、おれは妹系はタイプやないねん。どっちかっていうと、おねぇ様系のほうが好きやし、チアとかナースとかのほうがええのよ。ま、さすがに最初はやられたよ。でもまぁやられたけど、なんていうかもう慣れた。いや、慣れはしない。慣れたというか、おれが大人になったのかもな。」
「なるほど。って、なに最後かっこよく閉めてんだよ。」
のどかには、コスプレさせといて、おねぇ様系がタイプって、よくわからないやつだ。
「いいのか?」
村雨が雪に問う。
「ん~まぁ、大丈夫だろ。な、クソ猫。」
「たしかに強いし、あのでかさは脅威だな。」
「ですね。」
「ああ・・・って・・・。」
「「「おまえだれだぁ!!!???」」」
ラキ、雪、村雨の会話に自然と入ってきていた、なぞの男。この部屋1面に響き渡る声。ラキ達の方を見ないわけない。
「あっ!」
幽海がその男を指差す。
「失敬。急にお話に交わらせていただくのも失礼かと思ったのですが、皆さん個々で盛り上がっていらっしゃいまして、入る隙をうかがっていたのです。そしたら、こうなってしまって。本当に申し訳ないです。」
「シュバルツさんだ!!」
「あ~。そういえば。」
「はい。私はディモナイ・シュバルツです。お久しぶりですね。幽海さん。雪さん。それと・・・皆さんには1度あってますよね?」
Mr.Dの仲間、吸血鬼、シュバルツが久々に幽海達の目の前に姿をあらわす。
「はぁ?誰だ、こいつ。」
猫無、ラキはヒールドレス、紅炎、シュバルツが消えてから、他の部屋から出てきたので、シュバルツの姿を見ていない。
「?」
猫無、ラキ同様、のどかも無理やり他の部屋に入れられていたので見ていない。
「そうでした。私が勝手に皆さんを見ていただけでしたね。改めまして・・・。始めまして、ディモナイ・シュバルツです。以後よろしくお願いいたします。簡単に私自身のことを説明いたしますと、Mr.Dの子分ですかね。あっ、Mr.Dというのは、前に襲ってきた、我的姉妹のボスでもありまして・・・」
「!!猫無!!行くぞ!!」
「ちょっと待った!」
「あ・・・そっか。」
猫無の体は風鳴との戦いでボロボロだった。
「私は別に戦いに来たわけではありませんよ。今日はただ・・・おや?」
「ミキ!!」
風鳴がミキにぬいぐるみになるように指示する。
「風鳴!!」
「とりあえず、こいつは敵なんやろ?だったら、やったろうやないの。」
「でもな・・・。」
「今、戦えんのはおれだけやろ。な?」
ラキは言葉をつまらせる。ラキは猫無が負傷で戦えない。幽海は雪負傷。のどかは補助しかできない。だとすると、たしかに戦えるのは風鳴だけなのだが・・・。
「右手と両足に岩はもうつまってないんだぞ!だから、おれらに降参したんじゃないのか!」
「まぁ、たしかにな。でも、戦えないわけじゃないしな。」
「でも・・・。(そんな状態で勝てる相手じゃないんだ!)しかも、今日は戦いに来たわけじゃないっていってるし・・・。」
なんとか、戦わせないようにするラキ。だが、風鳴の気持ちは折れない。
「敵の言葉を鵜呑みにするんか?やられるで。行こう!ミキ!」
「グオォォォォォ!!!!!!」
「・・・すごいですね。いつの間にこのようなお仲間を?」
シュバルツは周りをみて、ここは危ないと判断し、猫無達が巻き添えにならないところに、風鳴を誘導する。本当に戦う気はなかったのであろう。
「(やれやれ・・・ここらでいいですかね。)」
シュバルツがようやく、《デスシックル》を取り出す。
「それが武器かいな。でかいな。」
「いえいえ。あなた様のものほどではありませんよ。」
そういうと、シュバルツはラキに目線をやる。
「(見といてくださいよ。)では、いきます。」
シュバルツはそういうと、《デスシックル》を高速で身体の前、横、頭の上、足元と回し始めた。
「第一夜 エクリプス。」
シュバルツは消えた。
「ええっ!」
風鳴はミキに乗り、上から見下ろすがシュバルツの姿はない。もちろん、ラキ達の視点からでもシュバルツの姿はなかった。
「どこや!?どこいったんや!!」
「ふふふ・・・。見えはしませんよ。」
シュバルツの声だけ聞こえる。
「月が太陽を覆い隠し、光を遮断するように、私のこの《デスシックル》が光を遮断、いや、切り裂き、私から放たれる、または私に向けられている光を消しているのです。」
「はぁ?」
難しすぎて、風鳴にはわからない。
「日食って知っていますか?」
「まぁ、知ってるけど。月が太陽の前に立って隠すってやつやろ?」
「はい。私がやってることは、簡単にいいますと、その日食なんです。」
「はぁ?」
簡単っていわれてもわからない。
「私が太陽で、《デスシックル》が月。月が少しだけ、太陽を隠しているのですよ。」
「なんや、まわりくどいやっちゃな。要するに・・・。ミキ!」
猫無に当てた時とは逆の手を使い、モーションに入っていく。
「実際はどこかにいるんやったら、一面攻撃すればええんや!!」
さきほどと同じように砂煙を巻き上げ、左腕が猫無達の目の前を通りすぎて行った。そのあと、足の岩がなくなって、体の踏ん張りがきかず、ミキはコマのように回る。
「これならどこにいても、あたるやろ。」
これも計算内だという。
「いえ。」
ミキの肩にしがみつく、風鳴の隣から声が聴こえる。
「それは、敵が地上に入ればの話ですよ。」
シュバルツが姿をあらわした。ふわりと飛び、右肩から左肩に移る。
「勘弁してくださいね。あなたが悪いのです。私は攻撃しないといっておりますのに、攻撃してきたから。」
ミキの左手を肩から切り落とした。その瞬間、ミキはレッサーパンダに戻る。肩に乗っていた風鳴は落下するが、シュバルツがうまく受けとめ、風鳴へのダメージはなかった。
「ミキ!!」
風鳴は駆け寄る。猫無戦で右手両足、今、シュバルツが左手を切り落としたことで、いくらすぐ縫ったとしても両手両足が使えなくなったと判断され、強制戦闘終了したのだ。また、風鳴の旅もここで終わる。シュバルツは猫無達のところへ向かう。
「話の続きです。今日はただ、しばらくの間、私達はあなた方に関わらないということを、伝えにきただけなのです。」
「ほぉ~。それはそれは。ありがとうございます。(なにがあったかしらねぇけど、ラッキー♪その間に猫無達を強くすりゃ・・・)」
「理由は、あなたがたが弱いからです。」
「はぁ?」
弱いなら今すぐ倒せばいいのに、意味がわからない。
「つまらないでしょう?ラスボスが弱かったら。」
「クソゲーだ!それは!」
ゲームに関して熱い熱を入れる、猫無。
「はい。それと同じで、私側サイドから見るとあなた方は敵。その敵が弱くてはつまらないのです。」
「・・・なんかムカつきます。」
「仕方ないじゃない。事実よ、事実。」
「そうです。仕方ありません。彼女が言うように事実なんですから。」
「ムッ!なんかあいつに同じこと言われるとムカつく~。」
水草先生は頬を膨らませる。
「理由はもう1つあります。あなた達は弱い。これは事実。そして、私達も弱い。これもまた事実なのです。」
「よ~するに、だ。お互いレベルの高い戦いがしたいわけだな?」
「まぁ、そういうことですかね。お話が長くなりましたね。では・・・。」
シュバルツが飛び立とうと、マントを広げた。
「最後に一言。幽海様。」
「あ、はい!」
急に幽海に話を振るもんで、驚く。
「以前、私がいった言葉、覚えていらっしゃいますでしょうか?」
「えっと~。キリンってウシ目の動物なんですってやつですか?」
「覚えてくれたのですか。うれしいかぎりです。では、もう1つ、覚えてくださらないでしょうか?」
「はい。大丈夫です。」
「ありがとうございます。」
シュバルツは咳払いをした。
「カマキリは結婚したら雌が雄を食べるんです。」
「前から思ってたんですけど、それには一体どういう意味が・・・」
「では、またお会いしましょう。」
シュバルツは消えた。
「セッちゃん。なんなんだろう?あの言葉?」
「さぁな。なんか深い意味がありそうだよな。でもまぁ、今は風鳴だ。」
もう動かなくなってしまった左手のないレッサーパンダのミキをただ見つめる風鳴。
「風鳴・・・旅は・・・。」
「ん?・・・ああ、ごめん。取り消しや。」
「そっか・・・。じゃあ、先いくわ。」
「そうか。そこの階段を上りきれば地上に出られる。元気でな。」
「ああ。」
笑顔で手を振ることなく、風鳴は立ち上がり猫無達を見送った。猫無達といっしょに旅に出られなかったこと、そしてなにより、ミキがあの世に絶ったこと。そのダメージで笑顔さえ、作ることすら忘れていた。いや、風鳴自身では笑顔を作ったつもりだったのかもしれない。だが、表情にはでることはなかった。猫無達は気を使い、急ぎ目にこの部屋を出て行く。

「ん~!よ~やく外か。久々の太陽の光が眩しいねぇ・・・って、全然眩しくねぇな!!」
夜につっこむラキ。
「結構な時間、地下にいたんだねぇ。」
フッ~と息を吐く幽海。
「なんで最後は階段なの!?」
不満を漏らす水草先生。
「大丈夫か、のどか?」
「は、はい・・・。だい・・・じょうぶ・・・です・・・。」
長い長い階段に疲れきっているのどかと、それを心配する村雨。
「はぁ・・・はぁ・・・ったく、だらしねぇ!」
「ごめん~。でも、怪我してんだよ!?」
「おれもいっしょだ!!」
もう登らないなどとだだをこねた猫無を背負って階段を登った、肋骨が折れている雪。
「さて、これからどうする?7人分ホテルに泊まれるほど金もってねぇぞ。」
「しかも民宿すらないような森の中だしね。」
「人数分のハンモックはあるぞ。」
ずっと背負ってたリュックからハンモックを取り出す村雨。さすが準備がいい。
「え~!!野宿~。」
水草先生は溜め息を吐く。
「決まりだな。バカ犬と猫無だけ、町に戻って、病院へ行け。」
「おう。」
「へぇ~い。」
「じゃあ、私達も一旦戻ろう!」
どうしても野宿は嫌だそうだ。
「ダメです。」
「うぅ~・・・あっ!じゃあ、あの小屋にいこっ!!」
こういうときは人一倍頭が働く。
「おっ!そうっすね!そうしましょうか!じゃあ、小屋に戻ってきてくれな。猫無、バカ犬。」
「嫌だ。バカ犬っていうな。アホ猫。」
溜め息をつく、ラキ。
「じゃあ、なんて呼んでほしいんだ?」
「天才。」
((((((ガキか。))))))
「じゃあ、天才。小屋に戻って来い、もちろん、猫無といっしょに。」
「おお!」
猫無と雪は歩き出す。
「ちゃんと、戻ってこいよ!!」
皆、極度の方向音痴な雪が心配で仕方ない。方向に関して、猫無は大丈夫なはずだから、まぁ多少は安心できるが。他の5人は小屋に向かった。小屋に着くとそうとう疲れたのか、皆、すぐ寝てしまった。


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